2010年5月12日水曜日

今日は父の命日でした。

ちょうど一年前、父がなくなりました。

仕事を終えてアルバイト先を出て、携帯電話をチェックしたら、母からの着信が何回も繰り返しコールしていることに気づきました。なにか急ぎの用事でもあるのかと、折り返し電話をすると、母の声はいつもとは違っていました。

まさひろ、まさひろ、と呼びかけてきて、いったい何が言いたいのか分からず、どうしたの? と僕が問い返すと、母はしぼりだすような声で、ただ一言、僕にいいました。

「お父さんが死んじゃった……」

いったい何が起きたのか分からず、何を言われたのかも分からず、ついさっきまでつづいていた日常から急に違う世界に飛ばされてしまったようでした。「嘘でしょ」と言葉を発してみたものの、それが本当であることはわかっていました。ただ、いままでとの日常との落差が激しすぎて、ただただ違和感ばかりが僕の意識を襲いました。

「帰ってきて……。おねがい、今すぐ帰ってきて……」
「わかった。すぐに帰る」

すぐにアルバイト先に引き返し、たった今母から電話があったこと、父がなくなったことを伝えて、アルバイトの休みを申請しました。

動転していてどうやって帰ったらいいのか、何をしたらいいのかわからなくなってしまい、僕が最初にしたことは、誰かに相談しようと、携帯電話でそのことをSNSに書きこむことでした。それを見た多くのSNSでの友人が心配やフォローのメッセージを添えて、今僕が何をするべきなのか(すぐに飛行機を手配して帰るように。喪服はあったほうがいいがなければないで構わないので帰ることを最優先に。など)を教えてくれました。友人たちを代表してひとりが僕に電話をくれて、その子が僕の代わりに僕の現状を友人たちに伝えてくれました。

そのときの僕は、実は、父へのカミングアウトをする直前でした。

母にはカミングアウトを済ませ、父にも話すつもりで、僕は僕なりにいろいろと準備を進めていました。ゲイについての本をいくつか父に読んでもらうために買って、母とはいつごろ父に打ち明けるべきなのかについても話していました。

対面で話すのがよいだろうと思った僕は、その年の夏休みに帰省をし、そのときに父に自分のことを打ち明けるつもりでいました。

けれど、間に合いませんでした。

父は本当の僕のことを最期まで知ることはなく、いってしまいました。ゲイであることを受け入れて、前向きに生きる僕の姿を父には見てもらいたかった。すぐには理解してもらえなかったとしても、きっと自慢の息子だと思ってもらえるはずだと、僕は期待をしていました。

僕はそのころ周囲に、将来、ずっと一緒にいたいと思える彼氏ができたら、結婚式をしたいと言っていました。ちゃんと家族を呼んで、友人を呼んで、僕はこの人と一緒に生きていくんです、と。日本の法律では結婚はできないけれど、でも結婚式をやるのは別に法律違反でも何でもない。公的にも認められればそれにこしたことはないけど、一番大事なのは友人や家族の前で、僕とその彼との関係を認めてもらうことなんだ、と思っていました。

けれど、父にはそんな姿をみせることはついにできませんでした。

駆けつけた父の地元の葬儀場では、もうすでに父が冷たくなって横たわっていました。

「お父さん、まさひろが帰ってきたよ、お父さん……」

何度呼びかけても、何度呼びかけても、返事が返ってこない。

聞いて欲しいことがあった。

ちゃんと伝えておきたいことが僕にはあった。

返事を聴かせて欲しかった。

横たわった父の表情はとても穏やかでした。隣でこんなに僕らが泣いているのに、声をあげて僕も母も弟も、こんなに必死に呼びかけているのに、なんでそんなに穏やかに微笑んで、なんでそんなにぴくりとも動かないんだ。ただただ「お父さん、お父さん」「起きてよ」「まさひろだよ」と呼びました。頑張って考えたのですが、そうやって呼びかける以外思いつかなかった。

あんまりにも早すぎた。

大学の卒業式にも出てもらえなかった。

亡くなってから父が職場で僕のことを話していたことを知りました。うちの息子は一人暮らしをしながら東京の大学に行っているんだと、早稲田に通っているんだと、話していたんだそうです。

そのときほど不真面目な大学生活をしていたことを後悔したことはありませんでした。ちゃんと単位をとって、胸をはって卒業し、父に報告するべきだった。父が職場で自慢できるように、卒業式で一緒に写真を撮るべきだった。

家族がひとりいなくなるって、こういうことなんですね。

今日のブログは結局、何を書きたかったのか僕にもわかりません。最初は、父にカミングアウト出来なくて、死んでしまってからじゃ何もかも遅いんだよという話を書くつもりでした。でもそれだけじゃない。家族が亡くなるって、そういうセクシャリティの話だけでくくれることじゃない。卒業式も、就職の内定も、これからのことも、いろんなことも、なんにも一緒にできなくなるし、なんにも一緒に話すことができなくなるってことなんですね。