2010年6月24日木曜日

「新成長戦略」を読んでみる(2)

これの続きです。

3つめにくるのは「アジア経済戦略」です。

これについては、主張の大筋には同意です。しかし手段については反対です。

アジアでの経済戦略が、日本の経済を左右するということには同意です。ちなみに、個人的に僕の関心が向いているのは、海外市場よりも日本国内の市場です。とはいえ、内需と外需は両輪です。ですから、どちらがより重要であるということもありません。

ただ、日本はすでに素晴らしい商品を飽和させている国です。ですから、国内の需要を拡大させていくことよりも、外部に需要を頼るほうがイージーです。これはシンプルな話です。日本の製品を買いたい日本国民よりも、日本の製品を買いたいアジア諸国のほうが、市場規模も大きいです。ビジネスの相手として、本質的にはやりやすいはずである、と僕は考えます。日本人はすでに多くの要求を満たす素晴らしい商品に囲まれています。そんな日本人の要求に答えるよりも、アジア諸国の新興地域にモノを売るほうがやりやすいでしょう。問題はいかに安価に売ることができるかというところです。よってこの話題においては円相場についての問題が不可欠です。が、それはひとまずおいておきましょう。

政府主導で、産業界がいったいとなってアジアに向けた経済戦略をたてていく。この方針自体にはまったく異論はありません。アジアでの経済戦略を政府として支援する。実に素晴らしいことだと思います。

最近、日本の産業をガラパゴス的だと表現するのをよく見かけます。「日本の商品は日本向けの仕様に特化しすぎている」「独自の進化をとげた商品は国際標準にあっておらず、海外には売れず、海外の競争では生き残れない」というのです。

しかし、これについて僕は反論があります。明治維新のことを思い出してください。維新政府によるトップダウンの改革によって、日本は従来の鎖国的体質を一気に変容させました。アジアにおいてもっともスピーディな近代国家の樹立を成し遂げた、歴史上類を見ない奇跡的な改革です。四民平等といった近代的身分制度への転換、廃藩置県からはじまる中央集権国家の構築、グレゴリオ暦の導入による国際標準へのハーモナイゼーション。遠い東の島国でありながら、ここまで西洋の文化を取りいれて発達した国家が他のアジアにどれだけありましょうか。これのどこがガラパゴスでしょう。

確かに、産業の分野によっては、ガラパゴスが存在します。最も代表的なものは電波です。これについては経済学者の池田信夫さんをはじめとして、通信における多くの専門家がこの状況に変革を唱えています。僕も同意です。明らかにおかしい電波の割り当てと国際標準に沿わない電波の使い方を改めることは急務のはずです。

それだけが理由というわけではありませんが、無線端末(ケータイ)メーカーは、結果国内向けの無線端末販売に特化しました。そして、いくつかのガラパゴス的技術・仕様をケータイに生みだしました。たとえば赤外線による通信や、テンキーで文字入力をさせるハードウェアキーボードなどが代表的なものです。こういった技術は、確かに国際的には売れないでしょう。こういったものだけをもってガラパゴスというのであれば、確かにガラパゴスです。

しかし、別にメーカは国際的に通用しない技術ばかりを開発していたわけではありません。防塵防水端末の開発や、ソーラーパネルによる充電などの技術を無線端末に搭載してきました。これらを搭載した端末は世界的に見ても、十分に商品性が高く、かつ実に先進的な無線端末のはずだ、と僕は思います。

日本向けのガラパゴス的な仕様や技術は確かに存在します。ですが、「日本の商品が国際標準にあっていない」「海外で通用しない」というのは、僕は違うと思います。日本の商品はもっと海外に売れるはずです。

多くのアジア諸国よりも環境問題や都市化を経験してきた日本企業が、アジア諸国の経済成長に乗っかるようにしてビジネスをするというのは、まったくもって合理的だと思います。2020年を目標にしたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築するためのロードマップを、というのにも賛成です。

しかし、このアジア経済戦略において不安なのは、アジア戦略を口実に特定産業、特に一部の大企業や産業に対して、政府として過保護な支援を行なおうとしているのではないか、という点です。

この成長戦略資料には「スマートグリッドや燃料電池、電気自動車など」を「日本が技術的優位性を有している分野」として「戦略的な国際標準化作業をすすめる」とあり、食品などについても、「食品安全基準の国際標準化作業」を行う、などとあります。また、日本が強みを持つ「インフラ整備をパッケージでアジア地域に展開・浸透させる」などとあります。

果たしてその「日本が強みを持つ特定産業」のアジア進出を、日本政府が、さほど積極的に支援する必要があるでしょうか? 企業は馬鹿ではありませんから、当然、国が支援などしなくても、アジアでの競争戦略が肝要だということは分かっています。

というよりも、多くの賢い企業たちはアジア市場の開拓にすでに取り組んでいます。それを日本政府が過長に支援するのは、ただの特定企業・特定産業優遇でしかないのではないでしょうか。

長期的な目線で見れば、そこで特定の大企業・産業に対して保護的な政策をとることは、かえってその産業を衰退させることにつながると僕は思います。さらに、日本が産むそのほかの商品を軽視することだと僕は思います。

たとえば、ユニクロが生んだような安価で機能性が高いカジュアルウェアの開発だって、世界に通用する技術・仕様ですが、この「アジア経済戦略」においては、都市開発系の産業よりも軽視されるでしょう。

シンプルに言えば、「新成長戦略」の汚点は、ターゲティング戦略的な要素が散見されるというところだと僕は思います。

僕は、まずアジア経済戦略において重要なのは「アジアに出ることができる日本の技術や商品は、あらゆる産業の中に存在するということをまず認識すること」だと考えます。環境技術や都市開発などだけではありません。衣料品や食料品、金融商品やIT技術商品、それこそ小売の販売手法にいたるまで。海外で通用する日本独自のビジネスはたくさんあります。

日本には確かにガラパゴス仕様はありますが、それが逆に強みを持つパターンもあります。

たとえば、日本人の舌に合わせて開発された食料品は、確かにガラパゴス的かもしれません。しかし、そこがかえって日本的な商品性として、海外で高く評価される可能性は非常に高いと思います。

たとえば、販売手法でもそうです。回転寿司のベルトコンベアもそうです。これは寿司という日本独特の料理・食事にあわせて開発された食事の提供方法です。しかしこれが国際標準でないことこそが、日本独自の商品性として評価されるわけです。

日本の四季にあわせて繊維の開発を繰り返したユニクロの衣料品も、そうです。機能的なカジュアルウェアとして海外での評価を、順当に獲得していってます。

政府の戦略として必要なのは、アジアでの自由貿易圏を構築するにあたっての外交努力程度でしょう。日本企業が他の国家の企業に対して、不利益な貿易協定を結ばされないように努力する、といった程度のことだと思います。

例えば、先日、中国で人民元の弾力化が行われました。人民元の上昇は中国の購買力を高めて、豪ドルなどの資源国通貨を押し上げると見られているため、中国政府はいずれ外貨準備の構成通貨を調整すべきだという声が出ているのだそうです。

僕は金融の専門家でないので詳しいことは把握していません。が、日本政府はこういったアジア諸国の経済政略について、ちゃんと外交の中で、声を発していってほしと思います。こういうことが本当の「アジア経済戦略」なのではないかと思います。

さらにいえば、必要なのは法人税の引き下げや解雇規制などの政策だと思います。単純にアジア圏において日本のビジネスの成長を促したいのであれば、まず、日本国内のビジネス全体に対して、競争を後押しする政策が必要なのではないでしょうか。

以下、次回「新成長戦略を読んでみる(3)」に続きます。