2010年6月9日水曜日

朝ぼらけの植物採集。

数カ月だったか、それくらい前の話です。

このブログをお読みの方はご存知の通り、僕は日本最大のゲイタウン・新宿2丁目によく遊びにいきます。終電でちゃんと帰宅することもありますが、しかし大抵は明けがたまで酒もろくに飲まずに友だちと喋りたおしております。楽しい時間というのは早く過ぎてしまうものでして、ふと気がつくともう始発の時間、なんてことはしょっちゅうであります。

その日もそのように飲み明かした朝のことでした。楽しい時間がもっと続いていればいいのにと思うのは何も僕だけの話ではなく、一緒に飲んでいた連中のうち、僕を含めたゲイ3人はそのまま家に帰ってしまうのが億劫でしかたなくなっていました。新宿2丁目から新宿通りを西へ歩く道はいつも後ろ髪をひかれる思いです。その日はいっそう、その足取りを鉛のように重く感じていました。

数ヶ月前のことでしたから、明け方の空気は今の時期よりもっと涼しく気持ちの良いものでした。出来たての風とでもいうようなすっきりとした空気が、東京都新宿区にもおとずれていて、それがますます僕たちを眠らせようとはしないのです。新宿駅東口までたどり着いて、往生際の悪い僕ら3人は、とうとうそこにきて駄々をこね始めました。

その中に元は自衛官で、今は庭師を目指しているという友達がいます。彼はいま、そのための学校に通っています。その彼が、今日は課題をこなさなければ、と言うのでした。

その課題というのが、東京都内にある植物の採集をせよというものでした。それではそれをこれから一緒に手伝おう。僕らは良い口実を発見したのです。近くに公園はあるかな? ああ、確か、西口の方に大きな公園があったはず。すかさず、もう一人の友人がiPhoneのマップで新宿中央公園をつきとめ、それではそこに向かおうということになりました。

ご推察の通り、僕はインドアな人間です。いえ、外にはよく遊びにいくのですが、たいてい建物の中にこもってしまって、日夜コンクリートやら漆喰やらの箱にとざされた生活をしています。しかも東京という都会に住んでいるものですから、季節を感じるのがよけい遅くなってしまうという、若干もったいない暮らしを余儀なくされています。

ですので公園で植物採集というのは、じつに新鮮な体験でした。まっすぐに青い手をのばした木々をまじまじとながめるというのは、なかなか目をみはる眺めであることに気づくのです。葉脈も目を凝らしてみれば、その細かな造形に心地ふかく感じいってしまうものじゃあないかと、興奮したのを覚えています。

そして新宿中央公園は、よくよくみると実に豊かな植物たちを抱えた公園だということにも気づきました。おそらくずいぶん税金を使った公園だったでしょう。その恩恵にあずからねば都民としてもったいなかろうと、僕たちはそこにある種類豊富な植物を堪能することにしました。

公園の木々にはありがたいことに木々の名前を記した札があちこちにありました。それを彼の課題にあるリストと照らし合わせながら、植物を採っていきます。もちろん無駄に取ることはしません。落ちているものでよいのがあれば、それを拾います。ですが、落ちているのはみずみずしくないので、青々と脈づく葉っぱの、なるたけ大きくて模様のわかりやすいのを、一枚だけちぎるのです。高いところにある葉っぱは、三人の中では背の高い僕の出番です。それがあまりに楽しかったので、ついには無理にでも採ろうとした僕を二人がたしなめる始末でした。

結果、彼の課題はみごとに進み、採集は成功しました。しかし、そもそも無駄に夜更かしをして朝を引き伸ばした三人でしたから、そのしっぺ返しもやってきました。ついぞ先ほどまで心地良かったはずの涼しさが、急に鋭敏な冷たさにかわったのでした。たぶん気温がさがったのではなく、半袖で歩き回っていた僕らの肌がしっくり冷え込んでしまったのでした。愛想尽かしとでもいうような、実にすげない寒さです。

3人で慌てて駅の方に引き返し、なにか朝食を取ろうということになりました。

朝食らしい朝食が食べたい。ごはんに、味噌汁。納豆に、海苔に、卵。

こういうときにもまたiPhoneがたよりになります。近くのすき家を探し当て、朝定食を注文しました。こういうときの味噌汁は、じんと身体をあたためます。こういうときには、痛感しますね。いちばん食事を美味しくするのは、心持ちなのだということを。

その後僕は電車の中でぐっすりと眠り込んでしまいました。あまりに長い間電車にゆられていたせいで改札ではじかれ、窓口の駅員さんに「すみません。眠り込んでしまって……」と恥ずかしい申請をしなければなりませんでした。あれは後ろに並ぶ他のお客さんにも申し訳なくなってしまうものですね。

その日は結局、電車の中で眠り込んだおかげで休日の大半をパアにしてしまったのですが、なんだかそれもまた有意義な休日だったかもしれないな、と後から思いました。

最近めっきり天気が荒れてしまって、雨の季節もまもなくです。つい雨には苛立を感じてしまいます。しかし、この植物採集のときの感動を思い出すと、雨に濡れた葉っぱも、じんわりと水をふくんでいい塩梅になるのだろうという気持ちにもなってきます。それを思えば梅雨も少しは良い季節だろうかと、ここ数日の崩れた季節に思うこの頃です。