2010年12月23日木曜日

新しいものの側に立ちたいという欲求

僕には新しいものの側に立ちたいという欲求があります。

いまこの冒頭の一文を書いたときに、僕は一瞬ひるみました。そして「たぶん」という言葉を一度入力しました。とまどって、消しました。もう一度書き直しました。


僕には新しいものの側に立ちたいという欲求がある。

これはもう、たぶんではなくて、確実にそうです。それをごまかすのはやめておきます。素直でありたいです。

新しい価値観を尊重するということは、多様性を尊重することとも近いことです。

厳密に同じことではありません。

古い価値観を尊重することもまた多様性の尊重にはたいせつだからです。ただ、新しい価値観を尊重することの方が、多様性の尊重には近いような気がしています。

多様性が尊重されるということは、僕にとって、とても重要なことです。

僕自身をとりわけ個性的な人間だと言うわけではありません。しかし少なくとも僕は同性愛者というマイノリティです。

多様性が尊重されない社会では、同性愛者は拒絶されてしまいます。僕は多様性をできるかぎり尊重したいと考えています。そして僕は新しい価値観を出来る限り尊重したいと考えています。

新しいものの側に立ちたいという欲求が、僕にはあります。

僕のとあるゲイの友人が、いま「40問題」というので、のたうちまわっています。なぜか縁のある男性が40歳ばかりで、しかもその誰とも結局うまくいかないのだそう(笑)。

ゲイには結構年上好きが多いと言われています。ほんとうかどうかは確かめられないけれど、確かにその印象は強いです。僕の周囲にも、年上男性好きが圧倒的に多い。

かくいう僕は、年下の男性が好き。まあ、23歳で年下というと、選択肢が相当限られてしまいますが。何歳まで年下を相手にできるかどうかからは、今のところ目を背けています。

件の「40問題」の彼に、年上との会話に惹かれるのか、ということを聞きました。

彼の答えはイエス。彼は知識の引き出しが多いひとが好き、と言います。なるほど、僕も確かに知識の引き出しが多いひとのほうがいいな、と思います。一緒にいて、豊富な話題があるひとって、すっごく楽しいですよね。それに、引き出しの多さは、多様な考え方をつめこんできた証です。

なのに、僕が年下のひとと恋愛をしたがるのはなぜでしょう。

ぶっちゃけ、単純な肉体的な性欲による理由がほとんどだと思います。若く、みずみずしく張っていて、なめらかな肌。なんだかんだ言って、やっぱり大好きです。

ただ、引き出しの多いこと、多様なものを分かっていること、それよりも。それよりも僕は相手になにか別のものを望んでいることがあるような気がします。

それが、価値観の新しさです。

自分が生まれ、とらえてきた時の流れの中では捉えられなかった、別の視点を、相手に求めたいと思っているのです。

こう書くと、なかなか響きのイイ理由です。

けれど、僕が、新しいものを肯定しようとするその思い。それは、本当は、僕のなかにあるとても意地が悪い欲望が発露させる思いでもあります。

なぜなら、僕は、新しいものがほとんど必ず人を傷つけるっていうことを知っているからです。

そして、僕は今まで「新しいもの」によって優越感と自己肯定感を得てきた人間です。

具体的に言えば、例えば、新しいコンピュータ。

僕は、コンピュータに慣れ親しんでいない人間に、新しくて便利なものとしてコンピュータを語ることが、必ずしも優しさだけでないことを知っています。

新品の裁断されたばかりの綺麗な紙で、皮膚が裂かれるようなイメージです。その人の薄皮に、傷をつけます。すっと、音もたてずに、まっすぐで見えにくい、鋭利な傷をつけるのです。

新しいやりかたは、そのひとが築いてきた、そのひとが慣れ親しんできた、それまでのやりかたを否定するものだからです。そのひとが、新しい価値観としてつくってきた考えかただとしたら、それはなおさらです。

確かに、そうでなく、新しいものをすっと受け入れられる人もいます。けれど、たぶんそれは、新しいものを受け入れるべきだ、という意志をもっているからです。僕もそうです。

けれど、そういう意志には、たいていほころびがあるものです。思わぬ部分の新しさが死角となっていて「最近の〇〇はよくわからない」が姿を表します。そしてそんな自分に傷ついてしまいます。

新しいものが、どこからやってきて人を傷つけていくのか、それを知る人はごく少数です。

ただ、僕はそこまで分かっていてなお、新しいものがとても好きです。新しい何かで、周囲が変化していくことが好きです。そこに、力が宿っていると信じています。

人を、寂しさとか、辛さとかから、すくいあげる力です。人を、もっと助け合えるように仕組み替える力です。

それを信じているのであればこそ、僕は出来る限り、意地の悪い気持ちをひっこめる必要があります。

新しさで誰かを傷つけようとするのではなく、新しさへのシフトを諦めるのではなく、新しさの側に立ちながら、向こう側にいる”古き良き”ひとの心も、ちゃんと尊重できる、そういう立ち姿でいたいです。

素直に、ちゃんと、今すぐ。

ダニエル・ピンク
三笠書房
発売日:2006-05-08

※この記事は6月に書いた記事の書きなおしです。