2011年3月6日日曜日

他国の文化を輸入・輸出するときに生まれる誤差を食文化から考える

他国の食文化を輸入するとき、あるいは他国に食文化が輸出されるとき、そこにはしばしば「意図的な」誤差が入り込みます。

食文化の交換が複数の地域のあいだで行われるとき、「それ」はおこります。

日本の食文化が輸出された代表例としては、寿司。

ロサンゼルスで「リトル東京(Little Tokyo)」と呼ばれる地域ができたのが1880年代。ダウンタウンのなかにあり、最大の日本人街だった場所だそうです。そこを発端に急速に広まった「sushi」は中国人や韓国人など、日本人の経営以外によるものが増え、日本の伝統的な寿司の調理法からは逸脱したものが増え始めます。

代表的な例として、逆輸入で日本でも親しまれ始めた「カリフォルニアロール」がありますね。

海外の食文化が日本へ輸入された例としては、キムチ。

輸入されたのは実は比較的早く、当初は「朝鮮漬け」と呼ばれていました。

しかし当初はその味覚が日本人には合わないということでアレンジが加わり、そして1980年代以降「(日本風)キムチ」が急速に広がります。韓国式キムチと日本風キムチの最大の差は乳酸発酵。

薬念(ヤンニョム)と呼ばれるものを一緒に漬け込むのですが、ニンニクのほか、ニラ、アミの塩辛、イカの塩辛、そしてナシなどの果物なども同時に漬けこんで発酵させることでコクとうまみを出します。日本には、この乳酸発酵の過程を省略・改変したキムチが多く出まわっています。

友人からきいたのですが、特にカキ(牡蠣)を漬け込んだキムチは、キムチの中でも最も評価の高いものなのだとか。一度食べてみたいものです。新大久保などに行けば食べられるのでしょうかね。

輸出先の各国になじまぬ食文化が、このように形を変えて受け入れられるということは、往々にしてあります。

しかし、由来となったもともとの食文化に対する誤解が問題視される場合もあります。特に寿司やキムチといったようなものは、ことさら誤解に対する反発も強いもの。それは、自国の食文化のなかでもひときわ愛情のそそがれる対象だからです。

その誤差が少ない(向こうの文化がほぼそのまま輸入された)例について、エスプレッソコーヒーの例をみてみます。

コーヒーは欧米で親しまれていた文化が日本にもたらされたものです。

コーヒーが日本にもたらされたのは江戸時代のことで、嗜好品というよりも薬としての効果を期待して輸入されたといいます。嗜好品として広く親しまれるようになったのは明治時代末期以降のことだそうです。

しかしこのころから広まり、日本に根づいていたコーヒーは、浅く焙煎したアメリカンコーヒー。イタリアで「カフェー」といえばエスプレッソのことですが、そのエスプレッソコーヒーが日本で広く受け入れられるようになったのは、もっと後のこと。スターバックスをはじめとする、いわゆる「シアトル系コーヒー」が伝来してからです。

「シアトル系コーヒー」はイタリアのカフェやバールの文化で親しまれているエスプレッソをベースに展開するもので、俗には「スペシャルティコーヒー」と呼ばれます。

シアトル系コーヒーの肝はエスプレッソです。が、エスプレッソは非常に味の強い(strong)コーヒー。そのため、飲み慣れていない人のために、それをベースにした飲みやすいドリンクなどから親しんで欲しいという思いでつくられるのが、シアトル系コーヒーショップで提供されるカフェラテやキャラメルマキアートといったドリンクです。

スターバックス以外で有名なシアトル系コーヒーショップをあげると、タリーズやエクセルシオールカフェなどがそうですね。

タリーズの創業者松田公太氏は、海外で気軽にスペシャルティコーヒーが飲まれている文化に衝撃を受け、それをきっかけにタリーズコーヒージャパンの創業をされたのだそうです。詳しくは彼の著書に書かれています。

友人の結婚式に出席するために訪れたボストンで、苦いというイメージしかなかったエスプレッソコーヒーのラテを飲んで、彼はそのおいしさと飲みやすさに気づいたのでした。それと同時に、それを気軽にテイクアウトで飲む文化にさらに衝撃を受けたのです。

彼はその文化を日本に持ち込むために多大な労力をかけて日本での起業を果たします。

結果はご覧のとおりですが、日本でもシアトル系コーヒーの文化が受け入れられ、今に至っています。

コーヒーそのものの文化は、欧米諸国とは誤差があります。しかし、エスプレッソコーヒーについては、シアトルのコーヒーショップがあまり誤差なく輸入できたのではないかと思います。

僕はこの食文化の輸入・輸出が産む「誤差の文化」について、批判的でも肯定的でもありません。しかし、もしもこの「誤差」が産む文化によって、美味しいものを味わえていなかったり、あるいは、美味しいものを誤解しているといったようなことがあれば、それはそれでくやしいなと。

最近、クア・アイナというハワイ発のハンバーガショップが都内に何店か展開されています。そのスタイルは、アボカドやパインなどを挟んだボリューミィなハンバーガーで、お皿に載って提供されます。そのスタイルは大変食べにくいと感じるようなものです。

参考画像→http://furuya.at.webry.info/200806/article_10.html

日本ですでに受け入れられている、紙につつんだ「食べやすいハンバーガー」とは少し違うのです。

おそらくですが、ハワイのハンバーガー文化を「そのまま」日本でも展開しているのでしょう。これが日本でどのように受け入れられていくのか、あるいは受け入れられないのか。

FacebookやTwitterなど、海外発のウェブサービスが輸入されることが最近ではよくあります。

世界各国の食を味わえるといわれる首都・東京を抱える日本。

そんな日本だからこそ、海外から「ナニカ」を受け入れるときの国の姿勢について、あるいは海外のものを輸入させるときの企業の手法について、食文化が蓄積してきた事例から学ぶこともできるのではないでしょうか。