2011年6月27日月曜日

ゲイであることに向きあうようになった真夏の夜

今日はゲイであることに向きあうようになったきっかけの話を書こうと思います。

そのころ、俺は夏の短期バイトに精を出していました。

働いていたのは、とある大規模な海の家。じりじりと肌を焼く太陽の下。俺はスピーカーを使ってお客さんを誘導したり、空き缶やビニール袋といったゴミを拾い集めたりといった作業を炎天下でやっていました。

あまりの暑さでやられてはいけないので、仕事は短時間の交代制。

三人のチームを組んで、交代で仕事。

しかし、俺が組むことになっていた相手が、問題でした。


名前は覚えてないから、田中ってことにしておこう。

田中は俺よりも立場は上なんだけど、こいつがはっきり言ってひどかった。

人に自分の仕事を押しつけ、勝手に手を抜き、自分のことを棚にあげて偉ぶり、姑息に休憩や楽な仕事をもらおうとし。

ただ幸いにも、田中がそういう問題野郎だってことは、メンバーの多くが分かっていました。田中よりも上の立場にいた「彼」もまた、そいつの問題行動を不快に思うひとりでした。

「くげちゃん、田中が無茶なことを言いつけてきたり、押し付けてこようとしたら、僕を呼んでいいから。あいつには気をつけなよ。いやだって思ったら、組む相手換えるのも、考えてみるから」

田中とくむことになった俺のことを、そうやって気にかけ、心配してくれたのが「彼」。

その仕事の期間中、トラブルはぶっちゃけ耐えなくて、田中とは本当に誰も組みたがらなかった。明らかに田中とくんだらやっかいなことになる、とバイトメンツはたぶんみんな思っていた。

それでも、俺は「平気ですよ!」と田中の相手を引き受けていた。

はい。言うまでもなく、それは「彼」が理由。

「彼」に気にかけてもらうことが嬉しかった。「彼」が俺を認めてくれることが嬉しかった。「彼」と一緒に、田中の問題行動に向き合うのが、楽しかった。

あるとき、田中がとんでもない言いがかりをつけてきたことがあった。

「お前、俺の悪口をネットで書いているだろう!」

はあ??? もちろんそれには本当に身に覚えがなかった。

で、あまりにも訳の分からない言いがかりと、その日のそいつの仕事のやりかたのひどさとの両方に、俺はそこでキレた。

「てめえバイトで立場が上だろうがなんだろうが、言っていいことと悪いことぐらいあんの区別つかねえのか。つうかオメエのことがネットで書かれてたとかなんとか俺が知るかよ、んなもん見てすらいねえよ、つうかお前そんなんチェックしてんのかよ、うぜえ、きめえ、つかお前ちゃんと仕事しやがれ、分別して拾えって偉そうにいってたのはオメエだろうがなんでテメエがしてねえんだよ、なんで上にも言われてねえことをお前が指示出してんだよ、・・・!

まあ、キレる前にわかっていたのだけれど、田中は偉そうにしているくせに、根性なしのビビリだった。反論してこようとするけれど、こっちが怒ってお前のことを問題にしようとしている、という姿勢をみせてやると、反撃できなくなる。

俺の勝利。

しかもたぶん、田中は絶望的に頭が悪かった。

論理の組みたてとかも出来なくて、どうやら反論できる内容にすら反論できないらしかった。それで不満そうに言い訳を探しながら謝る。(その言い訳もほんとに頭が悪いので、余計苛立ったんだけど)

しかしまあ、状況としては、部下が上司に対してキバを向いたんであって。俺は、その後がめんどくさいなあ、と思いながら、そのターンをやりすごしました。

でも、その俺の反撃を聞きつけた彼がやってきて、めんどくさい気持ちも一気に晴れたのでした。

「やったじゃん、くげちゃん。やるじゃん。そうだよ、あれくらい言ってやってよかったんだよ!」

それがまた、笑顔が可愛かったんだよね……。

仕事はほんとうにきつかったけれど、その彼の存在だけが、俺の幸福でした。



そして夏は終わり。

夏の間だけの短期バイトは終了となり、最後の打ち上げの日がやって来ました。

夜空、花火、酒、食べ物、音楽。野外でみんなはしゃぎながら、冷えたビールに、焼きたて揚げたてのチキンやポテト、即席のステージライブ。

俺は、この日、なぜか嘘のキャラをつくろう、と思ったんでした。

というのは、俺は基本的にそんなにガツガツ酒をのむキャラじゃないんです。が、この日、なぜか、俺はとにかくビールをとんでもないスピードでがんがん煽って飲んだんです。

たぶん、今思えば、単に見て欲しかったんだと思います。「彼」に。覚えたり知ったりして欲しかった。

正直、それでも結構平気なんじゃないかな、と勘違いして酒を飲みまくりました。「大丈夫?」と言われながら「だいじょーぶだいじょーぶ! のもうのもう!」と飲むのが楽しくて、ひたすら、飲み続け……。

うーん。このあたりよくおぼえていない。たしかそうだったはず。

それで、みんながいるところから抜けて、彼とふたりでトイレにいったのです。

ああ、肝心なところをよく覚えていない。

彼と肩を組んで、トイレに行ったのはなんとなく覚えている。

それで、トイレを出てから、なんだか、冗談半分に言われたんです。


「くげちゃん、ほんっと、いいやつだよね。なんかかわいいし」

「くげちゃんが女の子だったら、絶対付きあえるんだけどなあ」


いやまじでこれ妄想じゃないですよ。

酔ってたけれども。マジで鮮烈に覚えています。

電流みたいだった。

なんて言い返したんだっけ、確か「いやあ、ハハハ」くらいな感じで、笑った流したはず。

でも。

俺の脳内はぜんぜん笑ってなかった。

女の子じゃないけど、俺は、俺は、あなたが…

まさか言えなかった。

そのあと、何を言われるのかわからなくて、俺はなんにも言えなかった。

その日が、最後の日だったのに、言われたことは死ぬほど嬉しかったのに、死ぬほど嬉しいことを言われたそんなときに、向かい合わなければいけない自分に、俺は気づいた。

なにも叶えられない自分がいる。

何も言えずにその場をあとにしてからも、そのしんどさに気づいた。

このままじゃ、きっと俺は、なんにもかなえられない。

うれしいのに悲しくて、どうしようもなくて、何も言えなかった。酔いも手伝って、帰りの電車で泣いて、家に帰りました。

その夜、俺ははじめて自分がゲイであることにちゃんと向き合うことを考え始めました。

ゲイであることを、自分の人生に組み込んでいく、その覚悟の一歩を、踏み出した日でした。