2011年7月21日木曜日

好きなクラシック音楽の話 その2

クラシック音楽の世界には、間違いなく「教養」が大きなものとしてあると僕は思います。

僕はこの「教養」的なものの重視を、あまり否定しようとは思いません。

なにかの知識を踏まえて音楽を聞くことで生まれる「感動」や「心の動き」。そういうものは、音楽に限らず、おそらくどの種類の芸術にも存在します。

究極的に言えば、僕たちは「日本語の文法」を踏まえて、本や歌詞といった言葉に触れるわけで、むしろ、いっさい何の予備知識もなく「感じる」だけの芸術というのは少ない方のはずです。

ですから、作品性に触れて素晴らしさを喜ぶうえで、なんらかの「知識の踏まえ」を要求するタイプの作品を僕は肯定的に捉えています。知識を踏まえて、理解したときの喜びを、音楽ならずとも、あらゆる作品において、僕たちは理解しているはずだと思います。

しかし、クラシックの長大な歴史、重厚な世界観、奏法の技術や演奏の手法の蓄積のうえで、そこに積み上げられた「知識」は、あまりにも膨大です。

たんに「知識」というには膨大すぎます。「教養」、「学識」、「インテリジェンス」、「専門的知識」と呼ばなければならないほどの「踏まえ」を要求されることを、おそらく嫌いに思う人は多いはずです。

そう、そういうのは、うんざりだ。

もっとカジュアルに、シンプルに、ただ聞いて心地良ければいいではないか……。


僕は「教養」を肯定的に捉える一方で、そういった純粋な聴覚の心地良さに重点をおいた音楽の楽しみかたも、とても大切だと思っています。

というよりも、僕自身にもそういった教養の積み重ねが今のところまだあまりありません(できれば欲しいのですが)。

なので、僕は、もっとゆるやかな楽しみかたから、クラシック音楽に入門したいなと思うのです。

話は唐突ですが、僕は高二の冬、市民合唱&演奏で行われたベートーヴェン「交響曲第9番『合唱付き』」に合唱団員として参加しました。

さすがにこの曲は多くの人が知っているはずです。

なお、パートはテノールバスのかけもちです。基本的にはテノールの人間だったのですが、ベートーヴェンの第九のテノールパートには、僕の声では高すぎて歌えない部分がいくつかあったので、その部分だけはバスの合唱に参加したというわけです。

そして、実はこのベートーヴェン「交響曲第9番『合唱付き』」において合唱が展開される第4楽章こそは、クラシック入門者にふさわしい1曲なのだそうです。

この曲は、教養や知識の積み重ねを抜きにして、ただただ人間の喜びを湧き起こすことのできるものとして存在する形式の楽曲だからです。

その楽曲の形式とは「変奏曲」。

同じメロディーを様々な工夫を加えて演奏することを「変奏」といいます。

そして、ひとつのメロディーに様々な創意工夫を加えながら、パターンを変えて繰り返す形式の楽曲を「変奏曲」といいます。

なんども変化をつけながら繰り返していく創意工夫のあらわれは、とてもシンプルな興奮を聞き手に与えるのだといいます。

第九第4楽章も、変奏曲の形式をとっています。

チェロの単旋律で提示されるシンプルな主題の旋律。それを基本として、管弦楽、独唱、合唱の変奏が繰り返し応答しあっていく形式です。

変奏曲はいわば「ジャズ」の基本。

もっとも有名なクラシックの変奏曲のひとつに、モーツァルトのピアノ変奏曲「きらきら星変奏曲」がありますが、この曲にもジャズアレンジバージョンがたくさんあります。

(ちなみに原題は「『ああ、お母さん、あなたに申しましょう』による12の変奏曲」といって、当時フランスで流行していた恋の歌であるその曲を主題にした変奏曲なのだそうです)

ベートーヴェンの第9第4楽章は、そのように変奏曲の形式を取ることで、多くの人間の根源的でシンプルな変化や創意工夫の喜びをかきたてているのだそうです。

基本繰り返しの変化を楽しんで聞けばいいわけで、わかりやすいですよね。

そして一方でこの曲は、交響曲第9番 (ベートーヴェン) - Wikipediaをひとめみればなんとなくわかるように、多様な解釈や議論を味わうこともできるのだそうです。史上最も有名な偉大な音楽家のひとりによる有名曲ですから、やはりそこには様々な楽しみ方、知識への入り口があるわけです。

古典派の集大成、ロマン派の道しるべだと言われるこの曲。

この曲こそは、クラシック的教養に一歩踏み出すための入門曲に、おそらくピッタリな一曲なのだと思います。

時代も年代も遠く離れた東洋の島国・現代の日本でも愛され続ける理由は、そういうところにあるのかもしれないなと思います。



さて、以下、その他にも人気のある楽しい変奏曲

「ジャズのように、元のメロディーに工夫が加えられていく様子を楽しんで聞くのだ」という姿勢で聞くと、面白さがわかるような気がする、そういう曲たちです。

たぶん、以下に挙げるのは、多くの人が知っている曲ばかりです。変奏曲がいかに万人に愛される楽曲形式かということがわかるような気がします。

ラヴェルの「ボレロ」。

僕はこれをラ・フォル・ジュルネ2007年の最終日に聴きました。そのときの、とてもカジュアルな感じの、聴衆の共感の渦のような感覚を覚えています。となりのひとと目が会えば、思わず「いいですね」と笑ってしまうような感じです。



モーツアルトの「ピアノ・ソナタ第11番」第1楽章。

有名な「トルコ行進曲」が展開されるのはこのソナタの第3楽章です。ソナタ形式の楽曲の定義をくずした楽曲らしいので、「ソナタ形式とはこういう曲をいうのかな」と思ってこのソナタを聞くのはやめたほうがいいのかもしれないです。



シューベルトピアノ五重奏曲ます」第4楽章。

以下のYoutubeにあげたのは弦楽器付きのバージョンですが、こっちのほうがいいかなと思い。誰もが音楽の時間にきっと触れている名曲ですよね。そう、そういえばこれも変奏曲なんですね!