2011年10月14日金曜日

COLTEMONIKHA(コルテモニカ)はきゃりーぱみゅぱみゅの逆をゆく

デザイナー酒井景都と中田ヤスタカによるコラボユニット"COLTEMONIKHA(コルテモニカ)"が4年ぶりにベストアルバムを出すことが発表されました。

ヤスタカ&酒井景都COLTEMONIKHAが4年ぶり新作
http://natalie.mu/music/news/57945

COLTEMONIKHA
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
発売日:2011-12-14


数多くある中田ヤスタカプロデュースの楽曲。Perfume、capsule、MEG、鈴木亜美、きゃりーぱみゅぱみゅ……。しかし、そのどのプロデュース作品とも、COLTEMONIKHAの世界観にははっきりと違う点がひとつあります。

それは、COLTEMONIKHAの世界観を産み出すのが、中田ヤスタカではなく、酒井景都のほうであるというところ。

作詞も彼女自身が手がけ、アートワークも彼女が手がけます。楽曲制作についても「まず酒井景都の世界観ありき」で、酒井景都がイラストなどにイメージとして起こしたものを、中田ヤスタカが楽曲にしあげる、というスタイルでつくられるようです。

中田くんは「まず酒井景都の世界観ありき」と考えてくれていて。初めての打ち合わせの時、「紙にイメージを描いてみて」と言われたので、針葉樹林があって、湖があって、女の子や白鳥がいて、月が湖に移っていて、満天の星空があって、湖が凍っていて、というイメージを描いたら、「OKOK分かった、これで1曲作る」と言ってもらって。それで出来たのが『fantastic fantasy』。(2006年:酒井景都インタビューより)
COLTEMONIKHA「fantastic fantasy」

COLTEMONIKHA「Yum yum yummy」


COLTEMONIKHAののベースにあるのは、酒井景都が創りあげた「COLKINIKHA(コルキニカ)」という世界観です。コルキニカは酒井景都が手がけるファッションブランドの名前であると同時に、酒井景都による架空の国の名前でもあります。

コルキニカの国旗。針葉樹林がモチーフでコルキニカの寒さを表現している。

架空の国・コルキニカはロシアのそばにあり、国土は北海道と同じくらいの広さ、気温は平均14℃という寒い国です。この小さな国のなかには幾つもの村があり、空の色がグレイの日も雪の日も、心暖かく人々は暮らしています。

国家体制は社会主義。それは独裁者がいるとか、思想的に社会主義というのではなくて、大量生産を基本とする資本主義とは対極にある、一つ一つ手づくりしたものを物々交換して、のほほんと暮らしているという意味での社会主義なんですね。(MouRa:酒井景都インタビューより)

このコンセプトが出されたのは「かもめ食堂」がヒットするよりもはるか前なのだから、酒井景都はまさに慧眼だと言わざるを得ません。

荻上直子
バップ
発売日:2006-09-27

酒井景都が描くコルキニカという架空の国は、日本人が想像する「平和的な北欧の理想イメージ」そのものです。

ちなみに酒井景都は「かわいい北欧」をテーマにとった北欧ガイドまで出版しています。


酒井 景都
マーブルトロン
発売日:2009-08


先日、きゃりーぱみゅぱみゅについて書いた記事(→こちら)を読んでいただけた方なら、お分かりいただけるかもしれませんが、この酒井景都が持つ「コルキニカ」というコンセプトは、実はきゃりーぱみゅぱみゅと反対の性質を持っています。

日本において北欧は地理的に遠く、日本史の中では長らく北欧諸国に対する情報が絶対的に不足していたという歴史があります。そのため、北欧に対して日本が作ってきたイメージには一面的なことが多く、極端に美化されることが度々ありました。

吉武信彦によれば、それは「日本人にとって、北欧が直接の利害対立もなく、基本的に好ましいイメージでみられてきたため、人を説得する上で良いモデルとして利用しやすかったから」だと言われています。

とするならば、日本にとっての北欧がそうであるように、北欧にとって日本という国も「極東にある神秘の国」なのであります。

そのイメージを最大限に活用し、北欧諸国を中心にでの世界的人気を獲得したアーティストが「きゃりーぱみゅぱみゅ」だと言えるのであれば、「COLTEMONIKHA」はその逆のことをしているのだと評価できるのではないでしょうか。

日本の中で夢みるようにつくりあげられた北欧的「かわいい」を、「COLTEMONIKHA」を通して見たり聞いたりするとき、僕たちは日本の「Kawaii」が遠く離れたヨーロッパでどのように受け止められているのかを想像することもできるのではないかと思います。

もちろん、素直に、コルキニカの世界観を楽しみながら。

そういえば、世界観を体現する音楽とアートワークという意味では、「さよならポニーテール」とも似ている所があるかもしれませんね。さよポニの「物語」も僕は大好きです。

話は変わりますが、今年の春、酒井景都が9年間続けてきたファッションブランドの「COLKINIKHA(メイドインコルキニカ)」は、酒井景都の体調不良による療養のため、休止が宣言されました。

http://www.colkinikha.com/

その後、ブログによれば6月末には無事に退院したそうで、8月の頭には今回のアルバムリリースの準備をしていたようです(気づかなかった)。つまり今回のベストアルバムリリースには、一度ストップしたコルキニカ・コルテモニカの世界をもういちど再発進させるという意味があるのでしょう。

ベストアルバムに新曲が二曲しか入っていないということを嘆いているファンも多くいるようですが、このスケジュールを見るとかなり短い制作過程だったと思われます。おそらく酒井景都がコルキニカブランドを休止させた後に制作を続けていたというアートワークが、今回のアルバムのベースになっているのでしょう。今回のアルバムは、酒井景都イラストによるブックレット入りの限定生産品です。

おそらく、一刻も早く、コルキニカのCOLTEMONIKHAを復活させるために、こういう形をとったのではないか、と僕は推測しています。

前回の「COLTEMONIKHA2」が出たのはPerfume「ポリリズム」とほぼ同時期。ということは、Perfumeブームをきっかけに中田ヤスタカを知った人のほとんどが、おそらく「COLTEMONIKHA」をリアルタイムで知らないということになります。

そう考えれば、今回あらためてほぼ全曲を網羅したベストアルバムは、多くのリスナーたちへCOLTEMONIKHAの「はじめまして」の挨拶状のようなものなのかもしれません。

酒井景都、復活おめでとう!

なんにせよ、新たなコルキニカのスタートに祝福あれ、という気持ちです。発売が待ち遠しいです。