2011年12月8日木曜日

きゃりーぱみゅぱみゅ「つけまつける」はアジア的想像力が産んだ変身魔法である

※この記事は10年代の最新ネットカルチャー情報サイト「ねとかる!」に寄稿した記事です。


日本史において、長い間、北欧に関する情報は不足していたと言われています。そのためか、地理的に遠く、交流も少なかった異国・北欧の地を、日本人は理想型として語り継いできました。

研究者の吉武信彦によれば、それは「日本人にとって、北欧が直接の利害対立もなく、基本的に好ましいイメージでみられてきたため、人を説得する上で良いモデルとして利用しやすかったから」。

欧米列強、近隣アジア、文化的政治的衝突を経たこれらの諸外国にくらべ、北欧はあまりに美化されてきました。北欧神話の地、寒空の下、ゆたかに暮らす北欧の民。福祉の充実した政治的理想モデルとして、いまなお憧憬されるそのイメージは、「かもめ食堂」や森ガールといった近年の流行にも脈々と受け継がれています。

実はこのように、日本という国もまた、遠く離れた北欧諸国に対して、美化・戯画化されたイメージを振りまいてきました。極東の神秘の国として、北欧諸国にはいまだに誇張されたイメージが伝わっています。

そのイメージとはひとことで言うならば「Weird」。日本語で言うならば「」。

kawaii」を全面に押し出し、組み合わせの妙や幼児性、大量消費社会、といったJAPAN的な「Weird」をまとったきゃりーぱみゅぱみゅのデビューが、フィンランドやベルギー、スウェーデンといった北欧諸国を中心に、世界レベルで成功したのは、もはや必然だったとも言えるのではないでしょうか。

さて、きゃりーぱみゅぱみゅの最新シングル「つけまつける」のMVがYouTubeで公開されました。

前回に引き続いて、ヤバい出来の楽曲になっています。素晴らしいです。

きゃりーぱみゅぱみゅの楽曲にこれまで特徴的だった「繰り返し語」が今回も取り入れられました。名前にも「ぱみゅぱみゅ」が入っているくらい、きゃりーにおいて欠かせないものがこの「繰り返し語」です。

デビューアルバム「もしもし原宿」。「PONPONPON」。「チェリーボンボン」。これらのタイトルからもわかりやすいですが、これまで楽曲中でも「ぴぽぴぽ」「コトコト」などかなり積極的に「繰り返し語」を用いてきました。

今回の「つけまつける」でもその傾向は引き継がれています。



繰り返し語」。

実はこれ「日本」の独特なイメージを雄弁に伝える言葉のひとつなんです。海外に日本の「繰り返し語」を広めたものとはいったい何か?

その答えは「マンガ」です。


日本語における「繰り返し語」といえばその多くが「オノマトペ」と呼ばれる「擬音語・擬態語」。実は日本語におけるオノマトペは、世界的に見ても群を抜いて多いといわれています。フランス語などでは原則的に擬音語擬態語が存在せず、英語では200から300程度、日本語はその5倍以上のオノマトペを使うとされています。

しかも英語における擬態語が「twinkle(キラキラ)」のように意味からイメージを連想させるものであるのに対し、日本語は繰り返しの音がもつイメージでそれを伝えようとするオノマトペがほとんどであるため、これらが他言語においては非常に翻訳しにくい部分だと言われています。

この影響を強烈に受けているのがマンガで、ふきだしのなかに収まらずコマのあちらこちらに描かれる擬音語・擬態語をどのように翻訳するのか、いまだに海外のマンガ・コミュニティのなかでは紛糾する話題のひとつだといいます。

中田ヤスタカがどこまで意図して歌詞を書いているのかは定かではありません。しかし、海外ではこれらの「繰り返し語」は日本のユニークさを体現するものとして捉えられており、きゃりーぱみゅぱみゅの「アーティストアイデンティティ」を強く発信する要素として機能するだろうと僕は考えています。

きゃりーぱみゅぱみゅ、……恐ろしい子!

前回と同様にアートディレクションは個性的なビジュアルを全開にしており、アジア的な想像力を展開させた素晴らしい出来ですね。今回も田向潤監督の作品です。

「西欧近代的な成熟」ではない日本的、あるいはアジア的「変身」が志向できないか……(新潮12月号『成熟から変身へ』宇野常寛の発言より)

宇野 常寛
幻冬舎
発売日:2011-07-28

今回の歌詞はまさにそんなアジア的な想像力のなかで「変身」をテーマにかかげた楽曲。

さみしい顔をした小さな男の子
変身ベルトを身につけて笑顔に変わるかな
女の子にもあるつけるタイプの魔法だよ
自信を身につけて見える世界も変わるかな
同じ空がどう見えるかは心の角度次第だから

仮面ライダーや魔法少女ものから引き継がれた、日本的な現代の想像力を獲得した歌詞として、ものすごく秀逸なものだと僕は思います。

つけるタイプの魔法」。こんなフレーズがさらっと出てくるあたり、やはり中田ヤスタカは天才だと言わざるを得ません。

つーけま、つーけま、つけまつけーる♪

きゃりーぱみゅぱみゅ
ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2012-01-11


■「つけまつける」配信国一覧
iTune®Storeの配信国数35か国(日本/オーストリア/オーストラリア/ベルギー/ブルガリア/カナダ/スイス/キプロス/チェコ/ドイツ/デンマーク/エストニア/スペイン/フィンランド/フランス/イギリス/ギリシャ/ハンガリー/アイルランド/イタリア/リトアニア/ルクセンブルグ/ラトビア/マルタ/メキシコ/オランダ/ノルウェー/ニュージーランド/ポーランド/ポルトガル/ルーマニア/スウェーデン/スロベニア/スロバキア/アメリカ)に加えて、以下43か国(アラブ首長国連邦/アルジェリア/アルベニア/アルメニア/アルゼンチン/バーレーン/ブラジル/チリ/カメルーン/中国/コロムビア/コスタリカ/ドミニカ/エクアドル/エジプト/エチオピア/グルジア/クロアチア/インドネシア/イスラエル/インド/アイスランド/モロッコ/モナコ/マレーシア/ペルー/フィリピン/パラグアイ/カタール/セルビア/サウジアラビア/シンガポール/タイ/チュニジア/トルコ/台湾/ベトナム/韓国)
フランスの大手配信サイト「Deezer」にて配信予定。

ちなみにクレタ島クノッソス宮殿の「玉座の間」のグリフィンは、今回のPVとそっくり。



このような「玉座と対のライオン」という構図は、「死者の書」からスフィンクスまで、歴史的宗教的モチーフとして多く用いられるもののようなのですが、田向監督はどういう意図でこれを制作したのか聞いてみたいところですね。