2012年6月4日月曜日

中田ヤスタカとタッグを組んだアレクサンドラ・スタンが背負うルーマニア・イメージ

ここ数日、僕はとある国について調べ物をしていました。

その国とは、ルーマニア。


日本の人々にとってルーマニアは決してメジャーな国とはいえないでしょう。

東欧に位置するこの共和制国家は、ハンガリー、ウクライナ、モルドバ、ブルガリアに囲まれています。黒海に面した国でもあります。首都はブカレストといいます。

中田ヤスタカが今回リミックスを提供することになったアレクサンドラ・スタン。



彼女の出身国が、ルーマニアなのです。

ルーマニアはヨーロッパのなかでも特に貧しい国のひとつ。そのルーマニアからデビューした彼女のシングル「Mr.saxobeat」はヨーロッパの多くの国でヒットチャート上位をいくつも取りました。

オーストリア、ドイツ、デンマーク、ハンガリー、イスラエル、イタリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スイスの10カ国で1位を記録しました。イギリスでは3位(ダンスチャートでは1位)でした。

ルーマニア出身の女性歌手にはもうひとり、僕のお気に入りのアーティストがいます。

彼女の名前は「インナ」と言います。ぜひ聞いてみてください。かなりいいですよ。



僕はインナもアレクサンドラ・スタンも非常にお気に入りのアーティストなのですが、彼女たちふたりがともにルーマニア出身であることに気づいたとき、なんとなく気にかかることがありました。

そこで、ルーマニア出身で、かつルーマニア国外でも活躍している女性アーティストをほかにも数人調べてみました。

アンドリーア・バニカ。



クリスティーナ・ルス。



アンドリーア・バラン。



気づいた人もいると思うんですが。

ルーマニア出身の女性歌手、誰もどれも「お色気」路線すぎるのは何故なのでしょう……。

アレクサンドラ・スタンは「東欧の小悪魔」、インナは「セクシー・スター」、アンドリーア(・バラン)にいたっては「エロすぎるパンチラ・ダンス炸裂」とか、それぞれ売り出し文句があるようで……。

そこで冒頭に戻ります。

ルーマニアは非常に貧しい国なんですね。特に北東地域はEU(欧州連合)のなかで最も貧しい地域だとされています。

アレクサンドラ・スタンが生まれた1989年、ルーマニア社会主義共和国が打倒され、現在のルーマニア共和国が樹立されました。

この1989年はルーマニアにとってあまりに大きな転換点となった年です。

1987年のルーマニアを舞台にした社会派の映画があるのですが、それについて18歳のルーマニアの女の子がこんなコメントをつけました。

「1989年以前のルーマニアを知らない私にはとても遠いお話のように感じられるけれど、現在の私たちがどれだけまともな社会に生きているのかということを実感させてくれる。」

1989年までのルーマニアは共産党一党独裁による社会主義国家でした。1965年に成立したニコラエ・チャウシェスク政権は「東欧の異端児」と呼ばれる独自の政治を行いました。

おそろしい恐怖政治でしたが、今回はそのうちのとある政策をひとつ紹介します。

人口増大こそ経済発展の要であるという古典的経済理論を信じたチャウシェスクは、「妊娠中絶」を法律で禁止しました。

(※本題とはそれますが、チャウシェスク政権下におけるルーマニアのHIVに関する悲劇についても特筆すべき事項です。詳しくはおのおの調べてみてください。)

「妊娠中絶禁止」――。

結果として、人口増加のピークとなった1989年までに、ルーマニアの人口は20年間で30万人も増加することになりました。

しかし、経済状況は好転しなかったため、国内に新たに生まれた人口のための仕事は存在しません。80年代に生まれた彼らはいまちょうど20代です。

2007年にルーマニアはEUへの加盟を許されます。一度は見送られたEU加盟ですが、行政改革を行うという条件のもとで、加入が許されました。これによって、ルーマニアの若年層は「海外で出稼ぎをする」ことが可能になりました。

いっぽう、それと前後してルーマニア国内では風俗に対する取り締まりが強化されました。売春が完全に「非合法化」されたのです。

この結果、何が起こるでしょうか。国内に仕事もなく売春もできなくなった若い女性たちが、海外で売春を行うようになることは容易に想像ができます。

※参照リンク: 考察:欧州の風俗にルーマニア人娼婦が多い理由
http://dengekitai.com/euro/2011/04/3030168.html

現在、欧州の風俗にはルーマニア人娼婦が非常に多いのだそうです。

スペインにおいては外国人娼婦の実に6割がルーマニア出身だとか。

こうしたルーマニアの背景を知ると、ルーマニア出身の女性歌手がみな「セクシー」さを売り物にすることには、何か文化的な背景があるような気がしてきませんか。

少なくとも、ヨーロッパにおけるルーマニア女性のイメージには、そういうものがあることが容易に想像できます。

ちなみに、アレクサンドラ・スタンもインナも、決して貧しい女性ではないのですね。

ふたりとも音楽の才能を幼少の頃から開花させ、中産階級に育った優秀な女性です。

家族からも強いサポートを受けながら音楽の道を歩んだのだそうです。アレクサンドラ・スタンは国際関係論や法学を、インナは政治学を大学で専攻しており、十分な教育を受けて育っています。

しかしおそらく、アレクサンドラ・スタンやインナを見たルーマニア国外(ヨーロッパ)の人々は、彼女たちに対して「知的」なイメージをほとんど抱かなかったのではないか、と思います。なかにはおそらく、あからさまな目線で彼女たちを評価した人もいたでしょう。

なにしろ、アレクサンドラ・スタン公式YouTubeの"Mr.saxobet"についた最も評価の高いコメントがこれです。

「Music 50% Porno 50%」

ルーマニアはEUにおいて決してイメージの良い国ではないでしょう。特にイギリスなどではルーマニア人に対する差別はすごいと聞きます。それはひったくりやスリをするジプシーの人々に対するイメージが強いことが大きい理由のようです。

しかし、貧しい国から出稼ぎに来る人々に対する、富裕国の人々の目線がいかなるものか。それは日本人にも分かるのではないかと思います。そこには往々にして差別や偏見が発生します。

ルーマニア人だというだけでイギリスの大学で差別を受けた女の子の記事を僕は読みました。

アレクサンドラ・スタンやインナは、どんな思いでイギリスやドイツの舞台に立っているでしょう。

あくまで僕の生半可な知識によるイメージでしかなく、これもまた偏見の一種だろうと思います。ただ、ルーマニアの実情について少しばかり調べたことによって、僕の中で彼女たちに対するイメージは少しだけ変わりました。

堂々とセクシーさをアピールしながら、クールなエレクトロポップを踊るアレクサンドラ・スタン。

いっそう好きになりました。かっこいいです。

とても嬉しいことに、アレクサンドラ・スタンはとても日本を愛してくれているようです。



中田ヤスタカとのコラボレーションがいっそう楽しみになりました。

日本を表現するきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースののちに、ルーマニアを代表する歌姫であるアレクサンドラ・スタンを手がける。そのことに、おそらく意図的なものはないだろうと思いますが、なんだか奇妙なつながりを感じますね。

日本での契約はビクターだそうです。

「恋の大作戦」とかマジで台無し過ぎる変なサブタイトルつけたり、Facebookでしょうもないキャンペーン張ってたり、明らかに本人の言葉でない公式アメブロを更新していたり、なんだかよくわからないプロモーションをしている印象がかなり強いですが、中田ヤスタカをリミックスに起用したのは本当に素晴らしいと思うので、かなり期待しています。